幸せを感じる瞬間っていうのは意外に些細な日常の中にある。
好きな人と一緒のベッドで目を覚ましたり、おはようとあいさつをしたり、他愛のないおしゃべりをしたり、一緒にお菓子を食べたり。
何気ない一日でも、そこに好きな人がいてくれるだけですべてが輝いてくれる。
そんな幸せは意外とどこにでもあって、これも私が幸せを感じた一幕。
その日は別に特別な日だったわけじゃない。
ただ何となく、今日は星が綺麗だなっていう話から二人でベランダに出て空を眺めてた。
寒くない様に二人で体を寄せ合いながら。
「こうしてるとさ、あの時のことを思い出さない?」
「……そうね」
何気なく彩音が口にした言葉を私は噛みしめるように頷く。
それはもちろん、私がここにいるきっかけを作った夜のこと。
……彩音と初めて体を重ねた夜のこと。
二人で流れ星を流した夜のこと。
「………………」
その時を思いだすと自然と彩音への気持ちが膨らんで私は彩音の腕を取って頭を預けた。
「ん………」
まだ夏の薄いパジャマから彩音の体温が伝わってくる。私の大好きなぬくもりが。
彩音も私に頭を預けてきてコツンと二人の頭がぶつかった。
「……………」
無言の時間。
今、ここでこうしていられることの喜びを二人で感じてる。
(……あの時、勇気を出してよかったな)
本音を言えば怖かった部分もある。彩音が受け入れてくれないなんてありえないだろうけど、それでも絶対の自信はなかったし、親元を離れるっていうのは勇気がいることだった。
でも、彩音は私を受け入れてくれてこうして一緒に過ごすことができる。
なんて私は幸せなんだろう。
「………ねぇ、彩音」
私は彩音の腕を取って名前を呼んだ。
「ん?」
些細なことから彩音への想いを高めた私は
「す……」
意味もなく、理由もなく好きと伝えようとして
(そうだ)
せっかくきれいな空を見てるんだし
「月が綺麗ね」
少しロマンチックな言い方をしてみた。
(別に月を見ながら言うものじゃないけど)
たまにはこういう伝えからもありでしょ。
なんて一人悦に入っていると
「……そうだね」
一呼吸置いた彩音から期待外れの返事。
(……ここはそうやって答えるところじゃないわよ)
誰もがわかるっていうほどじゃないかもしれないけど、わかってくれてもいいのに。
まぁ、らしいと言えばらしいけど。
そもそも彩音にロマンチックなんていうものを求める方が間違いだったかも。
と、私は半ばあきれながらそれを思っていると
ちゅ。
いきなりほっぺにキスをされる。
「なっ……」
私が驚いて彩音の方を見返すと彩音は、してやったりという顔で
「あたしも美咲が好きだよ」
と、さっき私が望んだ答えを返した。
(…………ったく)
こういうことをさらりとする。
そんな彩音が私はどこまでも好きで、今ここにいられることが幸せだって改めて思うのだった。